こんにちは。
久々の記事になります。
今回紹介するのは、「一億人の英文法」です。
2015年のアマゾン年間ランキングで10位に入ったというぐらい、とても人気のある文法書とのことです。
どんな本なのか、気になりますね。
それでは教材の詳細レビューに入ります。
教材著者の紹介
本教材の著者は、大西泰斗さんとポール・マクベイさんです。
■大西泰斗(おおにし・ひろと)さん
東洋学園大学教授。
オックスフォード大学言語研究所客員研究員を経て現職。
英語学専攻。
古典的学校英文法に基づく従来の英語教育に異を唱えイメージによる英語学習を推進する、英語教育界の旗手。
「ネイティブスピーカーの英文法」他、シリーズ9冊、「英文法をこわす(NHKブックス)」他、著書18冊があり、海外でも多数翻訳されている。
また、NHK教育テレビの講師として「3か月トピック英会話ハートで感じる英文法」「同会話編」「ハートで感じる英語塾」に出演し、人気を博している。
■ポール・マクベイ(Paul Chris McVay)さん
麗澤大学教授。
英国出身。
オックスフォード大学でMA(修士号)を取得後、英国、オーストラリア、スペインで英語教育に携わる。
英語・フランス語・スペイン語の3カ国語に通じており、コミュニケーション技法の教授に定評がある。
大西泰斗との共著多数(上掲)。
NHK教育テレビ「3か月トピック英会話ハートで感じる英文法」「同会話編」「ハートで感じる英語塾」出演。
※以上、大西氏/マクベイ氏のウェブサイト
から抜粋・一部編集して引用。
教材の概要。ひたすら読んで理解する教材です。
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本教材は、テキストのみ、A5サイズ。
682ページ。
2011年9月初版発行。
CD等は付属しておらず、逆に新鮮さすら感じます。
本当にひたすら読む教材です。
ざっと見た時点で、次のような特徴が見受けられます。
ふんだんに図、イラストが使われている
バーッとめくってみると分かるのですが、図・イラストのないページがありません。
また、文字の部分も、文字色、背景色、フォント等を変えたり、レイアウトを工夫したりして、単調さを感じさせない配慮がされています。
気さくに語りかけるような語調で解説されている
全体的に解説がとても詳細なのですが、その文体は、「・・・である。」「・・・が使われる。」のような教科書調の文ではなく、語りかけてくるような調子で書かれています。
親しみやすい内容の例文が使われている
一般の文法書にありそうな「こんなセリフ、どんなシチュエーションで使うんだ?」と思うようなカタい文はなく、親しい者同士の会話に出てきそうな(他愛のない)話題が多いです。「英語の参考書」という感じではないので、身構えずにリラックスして読み進められるでしょう。
ちなみに、Part 1の最初に出てくる例文は、
She slapped John.
彼女はジョンに平手打ちをした。
という、やけに想像力をかきたてる例文です・・・。
ここから、本教材の学習内容について、詳しく説明していきます。
学習内容の詳細
本書「一億人の英文法」は、従来の文法書とは異なり、「英語を話す」ことを目的とした教材です。
具体的には、次のような特徴があります。
英語の「配置原則」の理解に重点が置かれている
文のどこに要素を配置するかが英語では大変重要。
「一億人の英文法」では、自然に・深く・効率的に英語を理解できるように、「配置原則」をつかむことを重要視します。
前から順番に読んでいく文法書になっている
従来の文法書はすべての項目が関連性なくバラバラに並んでおり、「英語百科事典」とでも呼ぶべきものでした。
それに対して、本書は、前から順に読んでいくことで、英語のシステムを効率的に理解できるように設計されています。
文や表現に「意識」を通わせている
ネイティブが「どんな気持ちで単語や表現を選んで話している」のか、という「意識・ニュアンス」まで踏み込んだ解説がされています。
それでは各章ごとに内容を見ていきます。
Part 0 英文法の歩き方
本書における序章の部分です。
「英語は配置のことば」という大原則を軸に学習していきますよ~、というイントロダクションの役割を果たしているパートです。
英語学習の地図とも言える英語で話すための「必須文法事項」4つについて、例文やイラストも盛り込んで解説されています。
Part 1 英語文の骨格
- CHAPTER 1 主語・動詞・基本文型
- CHAPTER 2 名詞
Part 1、特にCHAPTER 1は本書でもっとも重要なパートです。
- 主語は何か
- どんなものが主語になれるか
- 動詞の種類、変化形
といったことの説明のあと、基本文型をひととおり学習してしまいます。
文法的な面からではなく、「イメージ」や「ニュアンス」を重視した解説になっているのが特徴です。
CHAPTER 2では「名詞」を学びます。
ここでは、可算・不可算、単数・複数など、いわゆる文法事項が多いですが、やはりイラストや図を使ってイメージがわきやすいように解説されています。
日本人にとって使い分けが難しい
a、the、some、several、all、every、each
等(「限定詞」と呼ばれる)についても、それぞれどんなときに使うと英語らしい表現になるのか、ニュアンスの違いが解説されています。
ここまで、Part 1で英語の骨格を形作る「文型」「動詞」「名詞」について学習したところで、次のPart 2では「修飾」について学習します。
Part 2 修飾
- CHAPTER 3 修飾
- CHAPTER 4 副詞
- CHAPTER 5 比較
- CHAPTER 6 否定
- CHAPTER 7 助動詞
- CHAPTER 8 前置詞
- CHAPTER 9 WH修飾
前のPart 1で、「○○は○○である」「○○が○○をする」といった、文を作るのに最低限必要なものを学びました。
このPart 2ではその文にいろいろな情報を加える語句について学びます。
CHAPTER 3・CHAPTER 4では形容詞・副詞が何について修飾をするか、どんなルールがあるかといった通常の文法事項に加えて、表現を広げるための知識も学びます。
たとえば、「頻度」を表す表現として
always、usually、often、freaquently・・・
など、また、「確信」の度合いを表す表現として
100%、definitely、certainly、surely・・・
などがそれぞれどの程度を表すのか?といったことです。
CHAPTER 5は、
「○○は○○と同じくらい○○である」
「○○は○○よりも○○だ」
といった比較の表現について学びます。
ここでも、文法事項を順に解説していきつつ、表現ごとに異なる話し手の感情やニュアンスについても解説されています。
CHAPTER 6は、「否定」についてのチャプターで、ここはほとんどnotの使い方のみです。
CHAPTER 7は「助動詞」について学びます。
ここは、文法事項よりもそれぞれの助動詞の持つニュアンスの解説がメインになっています。
このCHAPTER 7では、
- may notとmust notの違い
- willとmayの違い
- canとbe able toの違い
など、助動詞について日本人が悩みやすい事項への解説が豊富です。
CHAPTER 8は「前置詞」で、前置詞の働きや選び方についての一通りの解説のあと、「基本前置詞」として28個の前置詞の概念と用法が、もちろんイラストと豊富な例文とともに解説されています。
CHAPTER 9は「WH修飾」です。
「WH修飾」とは本書のオリジナル文法用語です。
何のことかというと、例えば
This is the boy who loves Nancy.
という文で、the boyを説明する役割をしている「who loves Nancy」の部分のことです。
いわゆる関係代名詞です。
このチャプターは、what、who、which等の用法を例文を使ってひたすら紹介するのがメインですが、whichとthatの使い分けや、whichの前にカンマが付く/付かない用法(「関係代名詞の制限的用法」とか呼ばれるものです)等、気をつけるべきポイントも解説されています。
ということでPart 2は、文にいろいろな情報を加える「修飾」の仕方について学ぶパートでした。
次のPart 3では、ING形の動詞やTO不定詞を使った、より複雑な表現について学びます。
Part 3 自由な要素
- CHAPTER 10 動詞-ING形
- CHAPTER 11 TO不定詞
- CHAPTER 12 過去分詞形
- CHAPTER 13 節
CHAPTER 10、CHAPTER 11では、それぞれ動詞-ING形、TO不定詞が主語、目的語、修飾語など文の中で色々な役割を果たすことを学びます。
CHAPTER 12では、過去分詞を使って、受動文やその他色々な表現をする方法を学びます。
CHAPTER 13は、「節」を使った表現について学びます。
節とは、主語・動詞を持ち、文としての機能を持つ要素です。
さて、ここまでで英語の基本文型、修飾ルール、配置によって機能を変える要素について学んできました。
次のPart 4では、配置を「崩す」ことによって、感情の動きを表す表現方法を学びます。
Part 4 配置転換
- CHAPTER 14 疑問文
- CHAPTER 15 さまざまな配置転換
ことばの「配置転換」により話し手の特別な気持ちを表す場合として、CHAPTER 14では疑問文、Part 15では感情の抑揚や強調を表すときの様々な表現が紹介されています。
CHAPTER 14では、基本疑問文のほかに、否定疑問文や付加疑問文、さらにもっと口語的に疑問のニュアンスを付け加える方法、さらには「疑問の意味ではない疑問文」など、さまざまな疑問の表現について解説されています。
CHAPTER 15では、倒置により話し手の怒り・驚き・落胆など大きな感情の抑揚を込める表現について学びます。
そして、次のPart 5が、本書ではじめて「現在形」とか「過去形」など「時制」について体系的に学ぶパートになります。
Part 5 時表現
- CHAPTER 16 時表現
Part 5 はCHAPTER 16のみで、現在・過去・現在完了など「時制」についてのパートですが、単に時間軸上で「現在のことだから現在形、過去のことだから過去形」というような解説をしているわけではありません。
本CHAPTERでは、
- ネイティブが現在形を使うとき、どんな「意識」で使っているのか
- 同じく、過去形を使うときはどんな「意識」か
- 仮定法では、なぜ「時をずらす」のか
といったような、時制表現の背景にある「意識」に焦点をあてた解説が展開されています。
本書「らしさ」がもっとも表れているCHAPTERと言えるでしょう。
Part 5までで「文」そのものについてはあらゆる種類を学んできたので、次のPart 6では文と文をつなぐ言葉の学習をします。
Part 6 文の流れ
- CHAPTER 17 接続詞
- CHAPTER 18 流れを整える
CHAPTER 17では、以下のような、文と文を接続して話の流れを作る言葉について学びます。
and、or、if、because、so that、although、・・・
CHAPTER 18では、会話の流れを整え、自然な文にするためのテクニックが解説されています。
例えば以下のようなものです。
- 同じ語句の繰り返しを避けるために使う「one」、「do」
- 前後関係から意味が明らかなとき「省略」される語句
- 追加の情報を加える「同格」、「挿入」
本書の本編内容については以上になります。
補足:文法解説と同じくらい、コラムが充実
本書全体を通じて、「ネイティブの心の動きを詳解するコラム」、「文法現象にマニアな分析を加えたコラム」「会話へのヒントを書いたコラム」、「語彙を増強するためのコラム」など、さまざまな種類のコラムが用意されています。
読み物としてのコラムというよりは、日本人が間違いやすいポイントや、学習者が抱きがちな疑問に対する考え方など、文法学習と実際の英会話とをつなげる機能を果たすコラムになっています。
「一億人の英文法」の評価
当サイト独自目線で、教材を評価していきます。
教材コンセプトは明確になっているか?
本書は、英語を「話すため」の英文法という明確なコンセプトを打ち出しています。
しかし、実際に読んでみると、本書は文法書というよりは「英語を話す人の意識・キモチといった感情面の解説をする本」を、ムリやり「英文法の本」にしてしまった感があります。
しかも大ボリュームなため、教材実物はコンセプトというか狙いがわかりにくくなっている印象です。
学習対象者、学習期間、到達レベル等は明確になっているか?
本書は「一億人の」と題していますが、実際は
本書は大学生や社会人のみなさんはもちろん、大学受験をひかえた高校生(受験生)も対象にしています。
(CHAPTER 0より抜粋)
とのことです。
しかし実際の中身をみると、実はかなり「読む人を選ぶ教材」です。
また、本書には、「高校生なら10日で読破せよ」と書かれているのですが、実際は読破すること自体が容易ではなく、10日程度で読むとなるとなおさら難しいでしょう。
「話せる英語を最速で達成するための文法書」とうたっていますが、読んだだけで英会話できるようになることはありません。
部分的に、英語を話す人の意識・感覚を理解できるようになる効果はあると思いますが。
教材内容を実践できるか?
本書は、前から順に読み進めることができるように意図して構成されています。
それでも、実際に読破するのはかなり大変で、一度読んだだけで全てを把握するにはボリュームが多すぎです。
また、一般的な文法書は辞書的に使えるように構成されている(巻末に索引を設けて、知りたい箇所に素早くアクセスできる等)のに対し、本書はそういった機能がありません。
そのため、一度読んで概要を頭に入れないと、調べたいことを探すのに時間がかかってしまいます。
また、学習の仕方として、例文を繰り返し音読することが奨められています。
音読を推奨すること自体は良いと思いますが、音読方法自体については何もアドバイスやフォローがなく、学習者まかせです。
効果が得られると期待できる内容になっているか?
本書では「ネイティブが話しているとき何を意識しているか?」について、筆者独自のアプローチによる解説がなされています。
また、「英会話」と乖離した文法書にならないよう、随所に設けられたコラムで学習をフォローしています。
しかし、本書を読破して、例文を音読しまくっても、自由自在に話せるようになるとは期待できないと思いました。
「ずっと英語を勉強しているが、ネイティブの構文や表現の使い分けが理解できなくて、会話やライティングのスキルが悩んでいる」ような人が本書を読むと、新たな視点を得られるかもしれません。
私にとっては、本書Part 5(時表現)で書かれている考え方は、非常に参考になりました。
そういう意味で本書は「すべての人を対象にした、英会話スキルを身に付けるための文法書」というよりは、「既存の文法書とは異なる視点・角度から英語を考える機会を与えてくれる教材」と位置づけるのが妥当かと思います。
他の教材と比べて優位性はあるか?
上にも書いたとおり、ある文法事項を調べたいと思ったときの便利さでいうと他の文法書のほうが優れています。
本書は、文法体系の網羅性・検索性・厳密さよりも、「イメージ」や「意識」から出発して文法理解に到達するという独自メソッドを重視しているため、学習に変化をつけたい人に対しては、本書ならではの効果をもたらす可能性があります。
教材の品質、使い勝手等は問題ないか?
イラストや写真が多く、見やすくレイアウトされていて、品質面で問題はないのですが、何を伝えようとしているかわからないイラストもあります(気分転換にはなるかもしれません)。
また、例文の内容がネガティブ過ぎて気になるところもあります。ネイティブではなくネガティブ。例えば下の文。
My cousin is a delinquent kid.
僕のいとこは非行少年です
(CHAPTER 1より抜粋)
わざわざそんな単語を含む例文を使わなくてもなー、と私は感じます。TOEICにもぜったい出ないし。
教材に投入する費用や学習時間に見合う内容か?
価格はとくべつ高価だとは思いませんが、無理して時間を確保して読破しても、英語を話せるようになるとは期待しないほうが良いです。
そもそも読んだだけで話せるようになる教材などありません。
総評
「一億人の英文法」の総合評価・・・評価C(おすすめしにくい教材)
高評価&人気のある教材ということで期待していましたが、実物を読んでみると、いろいろと思うところがあって、当記事後半は辛口な指摘が多くなってしまいました。
いろいろと物議をかもす点のある本書「一億人の英文法」ですが、「ネイティブの意識・キモチ」を理解して英文法を学ぶというアプローチは独自性のあるものだと思いますし、その効果が得られる人もいると思います。
つまり、「ある文法事項なり表現・語法なりが理解できず、いろんな文法書を見てみたけどやっぱり釈然としないままになっている人」が本書を読んだとき、うまくハマれば、さとりを開くようにパッと理解できた!というドラスティックな体験ができるかもしれません。
私としては、本書Part 5 - Chapter 16「時表現」の現在形についての解説で、
(現在形は)広く安定した状況に包まれる一体感と共に使われます。
と書かれているのを読んで、「なるほど!」と思いました。
現在形が、「現在の習慣や定期的に繰り返される行為などをいうときに使われる」というような解説は聞いたことがあったのですが、「安定」という概念でとらえる解説は新鮮で、かなり納得できました。
例えば、「live」なら、東京に住んでいる人は、仮に今、外出していて東京にいないという一時的なことが起こっても、長期的には東京に住んでいるという事実は安定したものだから、
I live in Tokyo.
と現在形で言うわけですね。
こういう気づきの得られる箇所が本書には、確かに、あります。
「こんなとらえ方をすれば、スッキリ理解できるんじゃない?」
という提案をしてくれる教材と位置づけるのが妥当かと思います。
ただし、文法学習が一通り終わったぐらいの学習者に無条件におすすめできる本ではありません。
ということで、基幹的な学習教材・方法は別途確保しつつ、マンネリ打破のために<自己責任で>本書を使うことをおすすめします。
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