「瞬間英作文って言葉をよく聞くから自分もやってみようかと思うんだけど、本当にペラペラになれるのかなー」
と思っていませんか?
この記事では、瞬間英作文トレーニングの効果を解説しています。
瞬間英作文をこれからやろうとしている人、すでに始めている人のためにトレーニングの効果とデメリットを解説しました。
過度な期待は挫折のもと。トレーニングの狙いと効果を正しく理解することで挫折を防げるし、効果も大きくなります。
ぜひ読んでみてください。
瞬間英作文とはどんなトレーニングか
瞬間英作文とは、短めの日本文を英文に直す作業をスピーディーに大量に行うトレーニングです。
「短文暗唱」「口頭英作文」ともいわれます。
例えば、
あなたの奥さんは看護師ですか?
という日本文を見て(あるいは音声を聞いて)、
Is your wife a nurse?
どんどん話すための瞬間英作文トレーニング p.40-41より
という英文をできるだけ早く作ってアウトプットします。
類似のトレーニングは以前から存在していましたが、森沢洋介氏が学習メソッドを体系化し独習教材として発売した「どんどん話すための瞬間英作文トレーニング」が大ヒットして非常に有名になりました。
瞬間英作文は、広くとらえれば「短い日本文を英文に直すトレーニング」ですが、森沢メソッドでは特に以下のスキルの習得を重視しています。
- 文型アクセス能力
- 文法ルール運用能力
文型アクセス能力とは、英文を形作る骨組みである文型を瞬時に選ぶスキル。
- SVC:This is a good book.
- SVO:I have two cars.
- 形式主語it:It is fine today.
話そうとしている内容にふさわしい文型は(一つとは限りませんが)ほぼ決まるので、まずその適切な文型を瞬時に選ぶスキルが必須になります。
次に文法ルール運用能力とは、いわゆる単語の「活用」を文法に基づいて行うスキルです。
- 動詞の人称:He likes music.
- 疑問文:Did he go to the library?
- 比較級:She speaks English better than me.
文型を選んだら次は単語を載せていくのですが、その際、上記のように主語・時制・文の種類(平叙文/疑問文/命令文など)に対応させて単語を活用する(変化させる)必要があります。
瞬間英作文では主語・時制等がさまざまに設定された文を処理することにより、知識として存在する文法ルールを反射的に引き出して単語を活用する能力をきたえます。
森沢メソッドでは、瞬間英作文トレーニングを第1~第3の3つのステージに分けて構成しています。
第1~第2ステージでは、特に上記のスキルを確実に習得するために、単語力でつまづくことなくトレーニングできるように意図的に語彙を制限しているのが特徴。
第3ステージでは語彙の制限を取り払い、文型アクセス・文法ルール運用のブラッシュアップとともに語彙・表現の獲得をはかっていきます。
瞬間英作文トレーニングの効果とは
ここでは森沢メソッド(日本文→英文)を想定して書きます。
瞬間英作文トレーニングを通して文型アクセス能力・文法ルール運用能力を高めることにより、スピーキング能力はもちろんのこと、
- リスニング力
- リーディング力
も向上します。なぜかというと、英語の文型と文法ルールが実用レベルで身体に浸透することによって以下の効果も得られるからです。
- 英語を英語の語順のまま受け入れられる→返り読みが不要になる
- 次に来る単語の品詞(名詞、動詞、・・・)を予測できる→内容を予測しながら聴ける/読める
このように効果の大きい瞬間英作文トレーニングですが、完璧なものではなくデメリットもあります。
瞬間英作文の見過ごされているデメリットとは?
瞬間英作文のデメリットとして、まず以下があります。(※ここでは森沢メソッドの第1~第2ステージを想定しています)
- 語彙・表現力が向上しない
- 実用性のない例文が多いのでモチベーション維持困難
- 表現が不自然(ネイティブっぽくない)なので実戦に使えない
上記1~3とも根は同じで、語彙制限のもとで大量の例文を用意したらそうならざるを得ないということ。
これはもう「仕様です」と割り切るべきで、実用的な例文やネイティブ表現は他の教材で習得すればいい話です。
むしろ、もっと本質的ながら見過ごされているデメリットは、以下です。
もう少し詳しく説明します。
瞬間英作文トレーニングの手順は以下のようになります。
日本語を見る
→内容を理解する
→日本語の語句同士の関係性を理解する
→英語の構文を選ぶ
→英語の構文に、上記関係性を再現するように語句を当てはめていく
※英文を作るまでの過程。トレーニング全体としてはこの後にも手順が続きます。
例文で具体的に見ていきます。
これは僕の祖父に使われた辞書です。
スラスラ話すための瞬間英作文シャッフルトレーニング p.102より
という日本文をトリガーにして瞬間英作文するには、まず
「これは辞書だ」
という内容(概要)を把握し、次に
「僕の祖父に使われた」が「辞書」を修飾している関係性を頭に入れます。
上記までは日本語でのプロセス。
ここから英作文で、文全体の文型として「これは~です」のSVC文型を選びます。さらに
「僕の祖父に使われた」が「辞書」を修飾している関係性を再現するために
which was used by my grandfather
という関係節を組み込んで、ようやく
This is a dictionary which was used by my grandfather.
という英文を構成します。
こう見てみるとわかりますよね?
日本語をトリガーにしたトレーニングである以上、日本語で思考する過程を排除することができず、しかもその割合がけっこう大きいのです。
実際に英会話をする場面では、そもそも日本文が介在しません。当然ですね。
自分から話しかけるときには日本文から考える余裕があるかもしれませんが、相手から話しかけられて返答するときまで日本語で思考していては会話になりません。
「話す内容をそのまま英語にする」のが前提になります。
つまり、
の流れです。
一方、瞬間英作文では
となります。
したがって瞬間英作文をどれだけ高速にこなせるようになっても、実際の英会話と異なるプロセスで英文を作っていることには変わりがありません。
本当の意味での英語脳には到達し得ないのです。
瞬間英作文トレーニングについて書かれたブログ記事では、瞬間英作文の効果については当然書かれていますが、上記デメリットに触れている記事はあまり見かけません。
記事冒頭で「ぺらぺらになれると思っていませんか」と書いたのはこういう理由です。
※そもそも森沢氏も瞬間英作文だけで話せるようになるとは言っていません。氏は瞬間英作文と同じ方法論でフランス語を習得しようとしてつまづいた経験があり、下記のように書いています。
知っている文型で反射的に英文を作れるようにする瞬間英作文は、英文の発射装置、つまり銃を作るトレーニングです。それに対して、英語のストックを増やし、また、その人の英語力全体を底上げする音読は、弾薬、及び、重い銃を扱うのに必要な筋肉を増やすトレーニングと言えるでしょう。・・・
銃と弾薬の両方を揃えるために、瞬間英作文のトレーニングを積むと同時に、ぜひ音読を並行して行い、必要なストックを蓄積してください。
スラスラ話すための瞬間英作文シャッフルトレーニング p.239より
それでも瞬間英作文トレーニングには意義がある
デメリットというか限界はあっても瞬間英作文トレーニングを実践する意義は確実にあるでしょう。
というのは、日本語が介在するしないに関わらず、文型や文法ルールを内在化させる効果は確実にあるからです。
例えば、
今日は雨が降るかもしれない
という文を即座に英語で言おうとすると、日本語にとらわれて
Today...
と言いそうになりますが、瞬間英作文トレーニングを積み重ねることで「天気の話は形式主語itの文型だな」と反応できるようになります。そうなるとTodayではなくitを主語にして
It may rain today.
と言うのは難しくありません。
文型へのアクセスを繰り返すことで少なくとも、形式主語itを用いる文型を自分の中にストック(内在化)できます。
内在化させることができれば、リスニングあるいはリーディングをしていて
It may...
という文が出てきて
「このItは何を指すんだろう?」
と悩みそうになったとき、
「いやいや、これは形式主語だ。it自体に意味はないよな」
と判断できるようになるでしょう。(実際に「形式主語」とか文法用語を考えるわけではないですが。)
文法ルール運用能力についても同様です。
話す内容に合わせて単語を活用する訓練を繰り返すことで、文法上の処理に必要な頭脳リソースが少なくて済むようになります。森沢氏も下のように書いています。
・・・トレーニングを始めた当初は、自分の力不足を痛感しました。「これは本です」という文を疑問文にしただけで、Is this is a book?とisを2回使ってしまったり、「彼は早起きですか?」に三単現のルールを忘れ、Do he get up early?と言ってしまうなど、文法を知っていることと、使いこなせることは全く違うのだということを痛感させられました。
とはいえ、トレーニングを続けるにつれ、こうしたミスも急速に減っていきました。また、初めは、正しい英文を作ろうとすると、頭の中で文法ルールをまさぐりながら文を組み立てるような、いかにも人工的な作業でしたが、ほどなく反射的に英文が口から出るようになっていきました。どんどん話すための瞬間英作文トレーニング p.202より
けっきょく瞬間英作文トレーニングは、
「英語ペラペラに話せるようになる魔法のメソッド」
ではなく、
「知識として持っている文型・文法ルールを最小限の頭脳リソースで使いこなすための特化型トレーニング」
と位置付けるのがいいようです。
まとめ
瞬間英作文トレーニングの効果とデメリットについて書いてきました。
- 瞬間英作文トレーニングでは文型アクセス能力・文法ルール運用能力の獲得を重視
- 瞬間英作文の効果はスピーキング力のほか、リスニング力・リーディング力もUP
- デメリットとしては、英文を作る過程で日本語を介するので、最初から英語で考える能力を習得できるわけではない
- とは言え、スピーディーに構文を検索し文法に則って単語を活用するトレーニングは実践する意義がある
瞬間英作文は効果的ではあるけれども、それだけで英語を話せるようになるわけではないことを理解いただけたかと思います。
では上記のデメリットを軽減し、「英語のまま理解し、最初から英語で考える」英語脳を作る方法はあるのでしょうか?
これについては次の記事に。